ボーンホルム島の事例
ボーンホルム島は小さいながらも世界をリーディングする取り組みを数多く実現してきました。明確なサスティナブルなビジョンを基に未来に向けた循環経済やコミュニティ作りに関する道を切り開いて来ました。
Exploring Bornholmではボーンホルム島の事例を通して学びを世界に提供致します。セオリだけではなく事例を使って分かり易く説明します。プロセスや文化、コミュニティ内の習慣など、外から見ただけでは分からない部分を解説します。島の歴史的背景も含めてボーンホルム島の循環経済、グリーンエネルギー、プレイスメイキングについて理解を深めてもらえる事を目標にしています。
Exploring Bornholmのセミナーやツアーで出会える事例について、3つのインタビューにまとめました:
インタビュー1:Klaus Vesløv(クラウス・ウェスレウ) ボーンホルム電力BEOF広報部代表
インタビュー2:Jens Hjul-Nielsen(イエンス・ユールニルセン)ボーンホルム廃棄物管理所BOFA代表
インタビュー3: Pernille Kofod Lydolph(ペアニッレ・コーフォド リュドルフ)観光局Destination Bornholm代表
インタビュー:Klaus Vesløv(クラウス・ウェスレウ) ボーンホルム電力BEOF広報部代表
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島が世界で最もサスティナブルな島に選ばれたとの事ですが、長期にわたり再生可能なソリューションへ移行をして来たプロセスと背景についてお話を伺えればと思います。中でも脱化石燃料とグリーンな活動に注目が集まっていると思うのですがボーンホルム島に住む人々はもともとサスティナブルな考えをお持ちなのでしょうか?
Klaus:
ボーンホルム島のサスティナブルな取り組みは2008年の金融危機に影響されたと思います。欧州の他国もデンマークも不景気になりボーンホルム島の若い世代は島を離れて行く現象が続きローカルコミュニティは危機を感じ始めたのです。島に優秀な人材を招くためにもボーンホルム島の魅力を改めて見直す新たな政策が求められました。サステイナブルに注目し始めたのは流行りに乗ると言うよりは島の将来を考えた苦肉の策だったのかもしれません。
新たな政策を考える際「どのようにして他の地域と差別化を図るか?」と言う課題が浮上しました。
グリーンなソリューションへの移行は既に多くの場で語られており電気自動車なども普及している時代です。島の収入源である観光とのつながりも考える必要がありました。
そこで次世代の観光に求められるものは何かを考えました。豊かな自然だけでは無く滞在中に出会う全ての体験が「グリーン」な考えである事に付加価値を見出せるのではと思いました。私たちはボーンホルム島を自ら巡り魅力と付加価値の再構築に取り組んだのです。その結果「2025年までにCO2ニュートラルな島」を目指す政策が立てられました。
Exploring Bornholm:
グリーンなソリューションへの移行は時間もお金も掛かると思うのですが、経済的な負担を減らすためにはエネルギーを効率良く使う必要があると聞きました。実際ボーンホルム島ではエネルギー消費の削減によりCO2排出量を削減しているとの事ですが具体的な目標があったら教えてください。
Klaus:
「カーボンフリー」な社会を目指すためには様々な取り組みが必要です。例えば交通機関の見直しなど。電気自動車については世界中で議論されているトピックスなのでまだ試行錯誤する余地があると思っています。
電力生産と熱生産に関してはボーンホルム島では既に100%カーボンフリーを実現しています(通常時)。島で使われている電力と熱は全て再生可能エネルギーで生産されています(ソーラー、風力、ウッドチップ、藁)。2016年に発電所を建て替えてから年間のCO2排出量を7万トン削減する事に成功しました。廃棄物処理によるCO2排出量は年間8千トン、こちらは未だに課題として残っています。2032年までにWaste-free(廃棄物の無い)島を目指しています。廃棄プラスティックを燃やす必要が無くなる見込みです。
現在非常時にはスウェーデンからの海底ケーブルによる電力補充が10%〜15%必要になる場合があります。デンマーク政府は2030年までにボーンホルム島沖の海上に2GWの風力発電を設置する予定なのでこの状況も今後変わってゆくでしょう。現在はスウェーデンからの電力が補充できなかった場合は島内の”バッテリー”から電力を補充します。このような事態になった場合はエネルギーをより効率良く使用しなければなりません。
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島は欧州で最もサスティナブルな島として「RESponsible island賞」を受賞したとの事。受賞の際に受け取ったEU基金でより政策が加速するのではと考えます。このような賞を受賞した事についてお聞かせください。
Klaus:
賞」は我々にとって意味のある賞でした。島への移住や観光を試みている人々に良いアピールが出来たと考えています。実際デンマークの他の都市からの移住者は年々増えており有能で若い人材が集まっています。2008年の当初、このままではいけないとサスティナブルな島になる事を目指し多くのRD&D(Research Development & demonstration)プログラムやDTU(デンマーク工科大学)のプログラムに参加しました。人口減少の中このようなプログラムに参加する事で世界中の技術者と繋がることができました。2009年にはIBM Zurichから声がかかりボーンホルム島を電気自動車のテスト運行の現場に使いたいと申入れがありました。テスト環境が整っていることからその後もシエメンス、日産、東芝、パナソニックなど、多くの企業に島を活用してもらっています。
企業とつながることでボーンホルム島のネットワークが一気に世界と繋がるようになりました。同時にプログラムを通して様々な知識に触れサスティナブルなソリューションへの考え方も多種多様な事に気付かされました。アプローチも違えば政治的な考えも違う中で共通に掲げられる事は何なのか? 現在ボーンホルム島に集まるノウハウを分析して戦略となるベースを考えることに取り掛かっています。
例えば島全体のエネルギーシステムが一覧できるシュミレーションモデルをデザインしました。エネルギーの生産と消費を想定しテクノロジーを導入したときの効果や気候変動による影響などを予測するシステムです。
Exploring Bornholm:
2019年11月にデンマークのØrsted社がボーンホルム島を世界初の「エネルギーアイランド」として開発するビジョンを発表しました。デンマークとポーランドの間に位置する新たなエネルギーハブとして世界に発信しデンマークが誇る洋上風力発電のさらなる可能性を発信する事が目標だと聞きました。計画は2030年を目処に進むことになり全国的に持続可能エネルギーの普及が期待されると思います。時代が変わりボーンホルム島が注目される今、島にとって大きなチャンスが訪れていると思うのですがこれからの課題についてはどのようにお考えでしょうか?
Klaus:
Ørstedの計画はボーンホルム島にとって新たな可能性が開けたと感じています。10年後には20km離れた海上で2〜3百万世帯を養う電力が生産される予定です。ボーンホルム島の人口は2万5千世帯なので生産された電力はデンマーク国内を始め、ポーランド、スウェーデンにも供給される見込みです。
可能性について話し合うと同時にボーンホルム島の未来について議論する事が大切になるかと思います。これからの雇用や人材育成についての考えやプロジェクトの実現に向けてローカルな力をどう生かすかを考えるなど、必要だと思っています。経済効果だけではなく島に住む住人の日常がどのように今後変わってゆくかを考え発展を遂げたいと思っています。
その他にも「パワー・ツー・エックス」(Power to X)のコンセプトへの取り組みが重要になってきます。どの分野に導入するかは2030年までに政治的に議論してゆく必要があります。
これまでもトライアンドエラーを重ねながら複雑な社会的課題に解決案を出してきたわけですから、更なる課題も乗り越え、ボーンホルム島らしいソリューションを世界に発信してゆきたいと思っています。
インタビュー:Jens Hjul-Nielsen(イエンス・ユールニルセン)ボーンホルム廃棄物管理所BOFA代表
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島では2032年までに焼却炉を無くし全ての廃棄物を再利用またはリサイクルする事を目標にしていると聞きました。 廃棄物を100%出さない計画は産業社会としては世界初の試みとして注目されていますが分別などに関しては島の住人や企業、観光客への負担が大きいのではないかと考えます。ボーンホルム島内では政治的なコンセンサスが取れているのでしょうか?
Jens:
サスティナブルな方向性とボーンホルム島を「グリーンな島」として認知してもらいたいという方針については概ねコンセンサスが取れていると思います。我々が発表した2032年までに焼却炉を閉じ線形経済から循環経済にシフトする計画について行政はとても前向きに受け取ってくれました。
ひとつのビジョンのもと政治的な思想を束ねる事ができたと思っています。サスティナビリティーについては10〜15年前から議論されて来たという背景もあり、時間をかけて多くの人に関心を持ってもらうよう働きかけてきました。
Exploring Bornholm:
目標の実現に向けてBOFAでは廃棄物の分別について市民やユーザーと一緒に取り組みを始めていると聞きました。「Bornholm shows the way」(ボーンホルムが導く未来)をキャッチコピーに島全体の意識を変えることから始めているように思えるのですが進行状況は如何でしょうか?今まで「廃棄物」だと思っていたものを「資源」として人々が再認識するには時間がかかると思うのですが。
Jens:
市民/ユーザーの全員の関心と参加は期待できませんが大多数の協力は得られると思っています。すでにリビングラボやコークリエイションを通して一緒にアイディアを出し合い実験をしたりしています。このようなイベントはとても人気が高く参加者が多いことからサスティナビリティーへの関心が集まっている事を実感しています。
例えを上げると、最近ゴミの分別方法についてより良いアイディアを募集しました。現在10種類の分別を家庭ごとにお願いしているのですが小さなコミュニティでは保管するスペースが足りない事や、高齢の方が多くて問題になっています。この課題を解決したい、と多くのボランティアとアイディアが集まりました。今後ボーンホルム島が変わってゆくにはローカルコミュニティの関心と協力がとても重要です。信頼関係を保つには複雑すぎるテクノロジーやコストの高いソリューションは避けてコミュニティを中心に考える必要があると思っています。
Exploring Bornholm:
2032年までに目標を達成するためにはやる事がたくさんあると思うのですが時間との戦いやプレッシャーを感じることはありますか?
Jens:
プレッシャーは感じますが同時にとても意味のある事だと感じています。ケネディ大統領の言葉にあったように「月に行くと決めた時、簡単だからではない、難しいからこそ挑戦するのだ」と。
BOFAはデンマークで最も小さな廃棄物処理の会社です。小さくても私はCEOとしてBOFAが常に挑戦している組織であってほしいと思っています。大きな流れに沿うだけではなく独自の開発にも力を注ぎたいと思っています。行政に頼るだけの立場ではなく地域の特徴を生かしソリューションを行政に提案、提供する立場を目指しています。
ボーンホルム島の人口は4万人。ある意味ここは「ミニ・デンマーク」です。この島で結果を出しその後デンマーク全国、さらには世界にソリューションを広めてゆきたいと思っています。目標を達成する事にはプレッシャーは感じますがそのぐらいがちょうど良いのかもしれません。
目標を達成できなかった時のこともよく質問されます。例え2032年に廃棄物の再利用率/リサイクル率が92%にしか達していなくても前進している事を称賛したいと思います。その後も取り組みを進め100%を目指す計画です。2032年に焼却炉を閉じることは計画通り進めるつもりです。
Exploring Bornholm:
海外ネットワークとのコラボレーションや知識の共有などは行っているのでしょうか?
Jens:
数多くのコラボレーションを国内外のパートナーと開始しています。現在はグダンスクの政治技術研究所とコラボレーションをしています。ヨーロッパのパートナーともプロジェクトを通してつながり多くの学生にも参加してもらっています。企業だけではなく海外の行政機関とも交流をしています。
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島には廃棄物を無くし循環経済への移行を成功してもらいたいと思っています。プロセスを経て得た経験や知識は他の地域や都市、コミュニティにビジネスとして提供できるようになると思うのですがどのようにお考えでしょうか?
Jens:
多くのローカル企業はボーンホルム島の「グリーン・アイランド」へのシフトは将来的に新たなビジネスを生むと期待していると思います。ボーンホルム島の競争力が高まると信じています。
サスティナブルなアイディアは今後世界的に求められる傾向にあります。ボーンホルム島は島の政策がきっかけとなりサスティナブルな商品やサービスの開発が進んでいます。通常腰が重いとされる第一産業も前向きに取り組んでおり近い将来どんなサスティナブルな商品がボーンホルムから生まれるか楽しみです。商品だけではなくパッケージングや物流など様々な分野で知識が集まっているのでとても期待しています。
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島のこれまでの発展について「島」であることは影響していると思いますか? 島である故に独自のアイディアを生み出す力やコミュニティを守る意識が高いのかなと思ったのですが。
Jens:
聞かれるまで考えた事はなかったのですが、もしかしたら島ならではのアイデンティティが強いのかもしれません。ボーンホルム島は1658年にスウェーデンに占領されたのですが自らの意思でデンマーク領土になる事を選びました。スウェーデンから来た司令官を殺害し兵士たちを追い払った歴史があります。その後デンマークの王に手紙を書きデンマークの領土になる事を希望したのです。自ら未来を切り開き生き延びるという力は当時からこの島にあったのかなと思います。
ボーンホルム島に限らず島での暮らしは海や自然に日々影響されます。自然を前に社会的ステータスやお金では解決できない事が多くあります。嵐が来た時は企業の社長であろうと島を離れる交通手段はなくなります。その為「共同体」という意識も高いのかもしれません。小さな事ですがボーンホルム島に向かう交通手段には「ファーストクラス」が存在しないので自然と島に近づくにつれ誰もが同じ、肩の力を抜いて過ごせる環境なのかもしれません。
Exploring Bornholm:
世界から注目が集まる中でボーンホルム島の課題を上げるとしたら何ですか?
Jens:
海外とのつながりも大切ですが最も重要なのは島内の理解と協力だと思っています。ローカルコミュニティと信頼関係を保ちながらどのように進めてゆくかが課題です。そのためには大勢の島民を対象にした幅広いソリューションに取り組む必要があると思っています。
インタビュー:Pernille Kofod Lydolph(ペアニッレ・コーフォド リュドルフ)観光局Destination Bornholm代表
Exploring Bornholm:
ボーンホルム島はデンマークの一部でありながら独自の言葉や自然が魅力的なバルト海に浮かぶ島です。ゆっくりした島の生活は多くの人を魅了し年々国内外から観光で訪れる人が増えていると聞きました。Condé Nast Traveler 2019はボーンホルム島を「ヨーロッパの休日を過ごしたい島」第2位に選び、New York Postはボーンホルム島を「一度は行きたいグルメな島」として紹介しています。ボーンホルム島の評判はどのようにして広まったのでしょうか?
Pernille:
多くのデンマーク人にとってボーンホルム島は修学旅行などで一度は訪れる島として親しまれています。交通手段が発達した事で移動時間は短縮されフェスティバルなどのために訪れる人が増えています。”遠い島”と思い込んでいた多くの人はイベントなどをきっかけに島への距離が縮まったと感じていると思います。
島内ではボーンホルムの魅力を伝えるために様々な取り組みを立ち上げました。島の魅力を再確認した上で明確なブランディング戦略を考えました。島の経験や知識を生かした取り組みが特に海外から注目されています。
Exploring Bornholm:
毎年約70万人がボーンホルム島に観光で訪れているとの事。観光による雇用は約3千人、年間26億クローネ(約452億円)の利益を生むと言われています。観光シーズンが夏に偏っている事が課題だと聞きました。冬のシーズンの観光を盛り上げるためにしている事があったらお聞かせください。
Pernille:
11月〜2月に島に訪れる人を増やそうと現在取り組みを進めています。島を訪れる「きっかけ作り」のため島内で協力しあいブランディングを強化しています。例えばNexøの港で新しくクリスマスマーケットを開催する事が決定しました。島を代表するクリスマスマーケットとしてマーケティングを行う予定です。島の住民と観光で訪れた方にとって新たな伝統行事になればと願っています。
Exploring Bornholm:
2017年にWorld Craft Councilにより世界初の「クラフト・リージオン賞」を受賞したボーンホルム島ですがクラフトや食を中心としたスタートアップビジネスを始めるのにボーンホルムは適した環境なのでしょうか?
Pernille:
ボーンホルムのスタートアップが成功するための特別な支援があるわけではありませんが島全体のカルチャーが新しい事に協力的でオープンマインドな事はスタートアップにとってプラスに働くのかもしれません。スモールビジネスが既に多く存在する地域なので理解者が多く親切なコミュニティである事も間違いありません。協力し合う事でさらなるアイディアがこの土地で生まれると思っています。
Exploring Bornholm:
起業家精神が強くクラフトマンシップという考えが幅広く浸透しているようにも思えるのですが、小さなビジネスが多いボーンホルム島の企業はどのようにして世界進出を果たしているのでしょうか?
Pernille:
ボーンホルムの企業はニッチでユニークな商品を開発している所が多いです。特に食に関するローカルブランドが近年国内外から注目を浴びています。世界的な賞を受賞したブルーチーズ、ソーセージ、チョコレート、アイスクリーム、菜種油、小麦、パン、ビスケット、乳製品、など。品質の高いローカルブランドとして人気を集めています。
海外進出は起業家精神と「ボーンホルム島」というブランドの力が掛け合わさった結果だと思います。ブランドを発信するビジネスネットワークとコミュニケーション網も発達していると思います。「Gourmet Bornholm」(グルメ・ボーンホルム)なども「食」への関心を高めるきっかけとなったブランディングの一例です。
2016年にはボーンホルム島のレストラン「Kadeau」(カドー)が島内初のミシェランの星を獲得しその後
2020年には 「Det Røde Pakhus」 がミシェラン・プレートアワードを獲得しました。このような出来事も島のブランディングに影響をしていると思います。
Exploring Bornholm:
アジア諸国からの観光も増えているのではないでしょうか。陶芸やガラスなどのクラフト、美味しい食事、ゆっくりしたライフスタイルとグリーンな取り組みなど、魅力が多いように感じます。これから観光に関する傾向は変わると思いますか?
Pernille:
長期的には島の経験やノウハウも付加価値として認識されてゆくと思います。近い将来に関して言えばやはり陶芸のような「クラフト」と「食」が島のブランディングの軸になると思っています。さらにボーンホルム島の美しい自然は時代と国境を越えて人々を魅了すると思っているのでぜひ海外からもきて体験してもらいたいと思っています。